俺マン2016~本編~
俺マン2016、本編です。
例によって年内発行のものが対象で、去年未単行本化枠で選んだ作品(『ディザインズ』、『終電ちゃん』、『あげくの果てのカノン』、『ライアーバード』)は外します。未単行本化枠は今年からやめる。めんどくさいので。
さらに上半期ベストコミックはもう選んであるのでここでは下半期で良かったやつのタイトルを挙げていきます。
上半期ベスト
『かんぺきな街』/売野機子
『hなhとA子の呪い』/中野でいち
『コオリオニ』/梶本レイカ
『ゴールデンゴールド』/堀尾省太
『氷上のクラウン』/タヤマ碧
『私の少年』/高野ひと深
『こども・おとな』/福島鉄平
『推しが武道館行ってくれたら死ぬ』と『とある結婚』は百合漫画編に移動。
ということで上半期7作+下半期12作で俺マン2016としようと思います。
『私の好きな週末』/三好銀
今年8月に亡くなられた三好銀の遺作。白黒の装丁は、三好作品のデザインも多く担当してきたセキネシンイチ制作室からのメッセージにも見える。三好作品の雰囲気は三好銀自身の人間性由来のものであった、ということが角田光代、横浜聡子、森泉岳土、やまだないとら、生前親交のあったクリエイターたちの追悼寄稿から読み取れる。
『海辺へ行く道』シリーズなんかはもうほぼ絶版に近い状態なんじゃないかな。亡くなってから注目されるのも本望じゃないだろうなあ…とは思いつつも、これを機会に(という言い回しも妥当ではないけど)多くの人に読まれて欲しい作家。
今年は小路啓之先生も急逝しちゃってかなりショックだった。どちらも唯一無二の作風で、同時代に生きて新作を読めることが楽しみな作家だっただけに失われたものも大きいんじゃないでしょうか。文化の損失。
『ぎなた式』/三木有
もう、めっちゃ良かった。「女子の武道」とされる薙刀に、「男子だから」という理由でスポーツ万能型主人公が拒絶されるというのが導入として完璧。サブキャラも立ってるし、演出も上手い。ロギイの作者だって気が付かなかった。
いや~きっと2巻の終わりあたりでもうひとりの男子薙刀選手(経験者)が出てきて、合宿回をはさんで4巻の幸村杯の県内予選では薙刀初心者に同じ初心者の月高が苦戦したりして、一方女子の部では磐石かと思われた國田さんがまさかの予選負けで全国大会には出られず、7巻の全国大会編決勝では西條も負け、ムサ高薙刀部2年目での雪辱を誓うシーンで8巻が締められるとかなんだろうな~~~~え!?!?1巻で終わりなの!??なんで!!???
『めしにしましょう』/小林銅蟲
すっかりインターネットの人という印象の強い小林銅蟲先生の商業連載作品。
脳直で飯描写の快感を得られるペーパードラッグ。多少マイルドになった銅蟲節も笑える。
『寿司虚空編』を早く単行本化してくれ。
『結んで放して』/山名沢湖
同人を描く人、書く人、そして同人を読む人にも、全員に読んでほしいやつ。
漫画に限らず何か好きなことを続けるには何かを犠牲にしなければいけないこともあったりして、それでも描き続けてくれる人たちに対しては、読者としては一生頭が上がらない。
ものすごい見覚えがあったりする。「結んで放して」、「憧れのあの人に近付くために描き続けて、でもあの人はもう描かなくなってしまった」という、ものすごい見覚えのあるインターネット文脈の百合もあるので同人屋さんや読み専の人も全員読んで
— すんすん (@kopiruwak) 2016年12月29日
あとこのほんわかした絵柄でコスプレプレイする同人作家カップルを描いたりするのでヒェッとなった。
『レイリ』/原作・岩明均、漫画・室井大資
レイリです。初回2話掲載でオッとなって、3話目読んであれ…?もしかして進み遅いのかな…?と思ってたんですけど、実はそれを見越して計画された2冊同時発売だったみたいです。完全に成功してる。1巻・2巻それぞれの巻末に岩明・室井両先生のあとがきを載せて、はっきりと漫画家としての性格の違いがあらわになってるのがめちゃくちゃ面白い。
長期連載になりそうだけど、話自体は出来上がってるっぽい?またひとつ楽しみな連載作が増えたことの喜びが大きい。
『クリスマスプレゼントなんていらない』/売野機子
売野機子2冊目選んじゃった。大好きだから。
登場人物が喋りすぎる売野漫画において、ポエムを吐かないタイプの主人公の「おれが美しいと思うもののために」はわりと新しいんじゃないかな~と思う。全話好きですけど。
今年は2冊も売野先生の漫画が読めて幸せでした。来年1月にも新しいのが出る。幸せ。
『あさは、おはよう 大澄剛短編集』/大澄剛
家族制度最高!一番好きな制度です!
大澄作品、『千代に八千代に』以来なんですけどやっぱりめちゃくちゃ良い…ひとりひとりを表情で描き分け、このキャラはこういう性格だからこういう表情をする、というのをしっかり考えてあるから生身の人間っぽさが凄い。独立した短編に登場人物が実はどこかでつながっていた、という構成も俺が好きなやつ。
読んでない作品全部読みます…
『春の呪い』/小西明日翔
春の呪い 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)
- 作者: 小西明日翔
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2016/04/25
- メディア: コミック
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家族制度最悪だな。やっぱりぶち壊すしかない。
太い主線で描かれた垢抜けない絵ではあるけど、グイグイ物語に引き込んで読ませる力がある。どうやら最初は小説として作ってたみたいですね。たしかに筋書きはそれっぽい。
ある日、「描けるかもしれない」と思った——vol.1|『春の呪い』インタビュー|小西明日翔|cakes(ケイクス)
死んだ瞬間に個人のすべてのSNSデータもこの世から抹消される仕組みを早く開発してくれという思いが強まった。
『晴れ間に三日月』/イシデ電
そうだ。家族制度をぶち壊していけ。いいぞ。
百合漫画編のほうに入れるか悩んだけどこっちにしました。というのも、元彼を幼馴染の取られ、お互いに子ども産んで14年ぶりに再会、そして14年ぶりの”絶交”に行き着く女と女の物語だから。
帯の山下和美が言いたいことをすべて言ってくれていて、「言葉にできない気持ちを言葉に」していて、ドロドロの愛憎劇なのに決して登場人物が感情的にならずに丁寧に言葉で解決させようとしているのが凄い。性格が良さそう。だから後味も爽やか。
『動物たち』/panpanya
みんな大好きpanpanya。併収されてる日記を読んでも分かるけど、何かを観察する目が優れてるんだろうね。
装丁も完璧。
『ローカルワンダーランド』/福島聡
みんな大好き福島聡。そういえばこれだけ上半期に入れ忘れてました。
物語を面白くする要素は何か?モチーフ、キャラクター、セリフ、伏線、オチ、コマ割り…そのすべてが福島聡の漫画には詰まってると思ってる。かといって漫画の教科書になるか、と言ったら高度すぎて決して真似できないような。
福島聡が描く裸体が好き。
『塹壕の戦争 1914-1918』/タルディ、訳・藤原貞朗
フランスの巨匠タルディの「戦記コミックの金字塔」と呼ばれるBD。そもそも初版は1993年に出版されており、さらに第一話となる「大砲の穴」という作品は83年に発表されたもの。また、日本語訳番も去年の夏あたりに出る予定だった(はず。その頃から気になってたけど一向に音沙汰がなかった)のが、2016年も11月になってようやく出版されたという経緯がある。
でもこれが今年出たのは偶然ではなく、2016年ベストムービーである「この世界の片隅に」と同列に語れるなと思っていて。そしたら訳者もあとがきで同じことを述べていた(翻訳自体は2015年にされているのでこの場合は漫画版と比較している)。
タルディは第一次大戦にこだわり、こうの史代は第二次大戦を描き、またもちろんジェンダー間の視点の違い、文化的違いがあるものの、どちらも「体験し得ない戦争の詳細を徹底的に掘り下げ、戦争を現代に生きる人のなかに内在化させてしまうこと」をやっている。
こうの史代があるいは片渕須直監督が、「この世界の片隅に」で徹底的に戦時中の市井の人を掘り下げたのと同じように、タルディは徹底して一兵卒(無名の兵士)を主人公にし、そして死なせる。タルディの手法は自身の想像によるところが大きいようだけど、そうやって視点を絞って細かいディティールを積み重ねていくことは実は普遍性につながっているんだ、というのが最近の気付き。
だから『塹壕の戦争』の登場と『この世界の片隅に』再評価の流れは呼応して、”フィクションの戦争もの”の可能性を提示したんじゃないかとすら思ってる。
姉妹書にあたる『汚れた戦争』についてはまだ読んでません。
ていうか年末にかけて『HERE』、『オリエンタル・ピアノ』、『失われた時を求めて』あたりの気になる海外漫画が増えて…全部買うわけにもいかないし…となってた。