2016上半期ベスト漫画
2016年上半期のベスト。上半期でまとめる意味としては、年末の俺マン選定作業を多少なりとも楽にするというアレがある。
レギュレーションとしては、今年6月までに新刊が出たもの。単行本出てても去年の俺マン未単行本化編で一度取り上げてるものは除外。
なのでこの9作+『あげくの果てのカノン』、『ディザインズ』、『ななしのアステリズム』でベスト12みたいな感じかな。
『かんぺきな街』/売野機子
「この子は”あの人”の金魚とあたしの金魚の子供よ」「だけど私たち 金魚を混ぜたわ」
「0才と16才と30才 進化の過程っぽいけどおれがいちばん夢も希望もない」
「窓の下で並んで アイスキャンディを食べたい その頭だけを陽が掠っている 君はのっぽだから――」
うう…愛おしすぎる…(泣いてる)。
「どこか不完全な人間の、まっとうな愛」みたいなのが売野漫画に共通するテーマだと思うんだけど、今作はまさにそれだった。
スケボーパークの形が三日月に見えたり、まあ直喩的に三日月が空に浮かぶ描写もあるけど、そういう「欠けた」ものと対比しての「かんぺきな街」なんだよな、そういうアクセントも俺好みなんだよ
— すんすん (@kopiruwak) March 26, 2016
まあなんとなくわかっちゃいたような、誰に影響を受けてるとかそんなんどうでもいいんですよね。インタビューを読むといいよ。
『hなhとA子の呪い』(1)/中野でいち
でいち先生の極度にデフォルメされた絵と芝居がかったセリフ回しの漫画的表現が効いてる。
ツイッターにあげてるエッセイ然り、前作『十月桜』然りなんだけど、自意識・妄想・罪悪感が爆発したでいち漫画の主人公は見ていて滑稽で、でもそれを軽々しく笑い飛ばす気にはなれないんだよな。そこが過剰なフィクションで騙されてる感があってニクイ。自意識オタクは中野でいちを読め。
『コオリオニ』(上)(下)/梶本レイカ
劇画狼さんがツイッターで毎日のようにおすすめしてたので。
北海道警のエースとS(スパイ)のヤクザが手を組んで、おとり捜査、クスリの密輸入など数々の不祥事、警察とヤクザの腐敗した関係を、実際の事件(稲葉事件)をモチーフに描いたクライムサスペンスBL。とにかく稲葉事件への圧倒的取材量、そしてそれをエンターテインメントに仕立て上げた構成力が凄まじい。
漢さんの曲をBGMに読むと良い。
警察の人間と裏社会の人間、社会に馴染めなかった者同士が自分の居場所をみつけ、どうやって生きていくか、っていうところに収斂させていくストーリーが重厚すぎるし、”ふたりの関係性”を描くBLというジャンルだからこそ生まれた話であるとも言える。
コオリオニについて、「BLの枠を越えて云々」という表現に、その通りと思う人も何か違うなあと思う人も両方正しくて、勝手にできた「囲われているジャンル」という意識の外に、「マンガに貴賤はない」と思っている人がちゃんといるんだというだけの事ではと思う。
— おおかみ書房/なめくじ長屋奇考録 (@gekigavvolf) June 14, 2016
おなじ稲葉事件を題材にした映画「日本で一番悪い奴ら」も公開中なので見てください。こっちは「ひとりの警察官の栄枯盛衰」に物語を絞ってる。
『ゴールデンゴールド』(1)/堀尾省太
民間伝承金欲ホラーチック福の神奇譚。もうゴリゴリに面白い。上半期で順位をつけるなら一位。一話が試し読みできるので読んでください。
福の神が具現化(?)して目の前に現れるコマなんかそこらのホラーよりも鳥肌モノ。
前作の『刻刻』は圧倒的な描き込みで”神ノ離忍”の異形さを表現してたけど、今作の”福の神”はまったくの逆。描き込みを削ぎ落としたツルッとした質感、ギャグ漫画に出てくるようなキャラにも見える、笑っちゃうほどの得体の知れなさをしている。
琉花と及川くんのラブコメ要素もあるけど、やっぱりこの人はサスペンス作家だと思うので、話の展開が読めない。二巻収録分では田舎の利権争いみたいなことにもなってきて、ますます面白くなってる。
氷上のクラウン(1)/タヤマ碧
グフタのフィギュアスケート漫画。4回転アクセルを目標とするポテンシャル型主人公、 天才スケーターを母親(故人)にもつサラブレッド型ポニテ幼馴染、同年代で圧倒的強さを誇りスター扱いされているライバルスケーター、とめちゃくちゃ分かりやすい設定。絵柄も一見シンプルながら、見せ場となるジャンプのシーンなど画面構成も計算されてる。
好きな漫画家に高野文子、松本大洋、黒田硫黄を挙げてるあたりがいかにもアフタヌーン作家っぽいんだけど、別にそこに影響されているというわけではなく作風はこれでもかというほどド直球にシンプル。
タヤマ先生は四季賞を受賞した作品もフィギュアを題材にしてた(らしい、読めてない)んだけど、フィギュアにこだわる理由として「10代半ばから活躍する選手が多く、技術的・人間的な成長を見守れる楽しさがある」と語っている。主人公が目標とする4回転アクセルも現実のフィギュア界で見られるのもそう遠くない話(?)なので、作品のリアリティラインも考えられている。そういう意味でも新時代のスケート漫画として期待できるのでは。
私の少年(1)/高野ひと深
30歳OLと12歳小学生のおねショタ漫画。百合だったらもっと良かったのに… 。
異性としての愛なのか、母性としての愛なのか、というところにギリギリ踏み込まない、その背徳感を感じさせるようで感じさせない微妙な調節が上手い。そして絵がエモい。なるほど、作者はもともとBL作家らしく。これおねロリ百合にしたらもっと売れるんじゃないですかねぇ…(十分売れてる。)
これは厳しすぎる百合厨の戯言です。ましゅうくん家庭環境の悪い美少女だし、メンタルゲロを催すクラスメイトも出てくるし、私の少年、百合でゎ…?(自己暗示)
— すんすん (@kopiruwak) June 22, 2016
『こども・おとな』/福島鉄平
福島鉄平、めちゃくちゃ良い漫画を描く人だ…。これはかつて「こども」だった人全員の物語であるはずだ。
分からないことが分かるようになり、周りの世界が広がっていく、そのきっかけとなる小さな出来事をこどもの視点で淡々と語りながらも非常にリリカルな読み口。大ぶりなコマ割りと少ないセリフは時間の流れをゆっくりと感じさせる。そこには「こどもの頃ってこんなふうに一日が長く感じたよな」と読者に思わせる効果もあるんじゃないの、とか。
推しが武道館いってくれたら死ぬ(1)/平尾アウリ
『まんがの作り方』読んでなかったんですけど、平尾アウリ、めちゃくちゃ良い百合を描く人だ…立場の違いって百合なんだよな…
オタ・アイドル間の百合以外にも、アイドル同士の(営業じゃなくガチっぽい)百合エピソードも挟まれててヤバい…推しがグループ内のメンバーと付き合ってることを知ったらオタはどうするの…?発狂して殺傷事件じゃない…?
あとドルオタあるあるみたいなのがコメディ要素としても効いてる。やっぱり百合オタクとしてドルオタの道を通ってきてないのはディスアドなんだよな… (自己批判)
とある結婚/熊鹿るり
森島明子の推薦帯が付いてたので。
ロサンゼルスに住むレズビアンカップルが、職場での偏見、クリスチャンの父親からの反対、隣に住むゲイカップルの死…など、困難を乗り越えて結婚までたどり着く話。実際にLGBTが人口の多くを占めるロサンゼルスに在住している作者は現場で取材を行ったらしく、アメリカでの同性婚についてのトピックがコラムとして挿入されている。
悩みながらも結婚までたどり着く「とある」「ふつうの」ブライダルストーリーとしてよくできている反面、とても現代的な漫画であるとも思う。