待ち伏せ

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俺マン2021

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『ワールド イズ ダンシング』/三原和人

「舞う」こととはどういうことか?その意味を見つけて成長していくジュブナイルもの、最高。
「身体と精神」といったテーマと合わせ、世阿弥を主人公に据えるからこそ「芸能と娯楽」の面を描けているのも面白い。すでに大河漫画として大成する器があると思う。

ストーリーの運び方としても、主人公が初期覚醒するタイミング、人格形成に影響を及ぼすキーパーソンへの邂逅が早い。今欲しているもの、こういうスピード感かもしれない。

読みなさい。

『トリリオンゲーム』/稲垣理一郎池上遼一

一見ハチャメチャな頭のキレ方で、無限大の自信が伴った欲望を持つ、千空と龍水の悪魔合体キャラが、青年誌上を舞台に池上遼一画で暴れるだけでもう面白い。リーチロー漫画のクセのあるキャラと池上遼一の絵柄が双方にバフを掛け合っている。
「アダムとイブ」でもそうだったように、荒唐無稽感のある原作に池上先生が絵を付けると説得力がすごい。

今欲しているスピード感のある漫画2(ツー)。

『ガールクラッシュ』/タヤマ

着飾って自身を付けた勝気プライド高女である主人公自身が、地味め女の自然体な魅力にガールクラッシュされるという構図が最高。女と女をやっていく上での”””お約束シーン”””が豊富でさらに最高。

一巻の時点でそのまま2人で韓国に殴り込みに行く展開の速さも良い。今欲しているスピード感のある漫画3(スリー)。一見対照的で生涯のライバルになりそうな2人が良き仲間になるというのは、近年のオーディション番組で見られる「同じ夢を追いかける練習生同士の友情」に繋がってくる。

今年出たアイドルオーディションものとして『ひかるイン・ザ・ライト!』も読みましたが、評価の分かれ目はここでした。

タヤマ先生はとにかく人物を描く線が大好きな作家なので、前作に次いでキャラクターの身体の輪郭がダイナミックに描かれそうなアイドルというジャンルは大いに期待するところ。どうにか紙で読ませて貰えませんか??

『ヒッツ』/柴田ヨクサル、沢真

命を軽く扱う美形殺人ジャリボーイが主人公というだけで嬉しいのに、(なぜか分からんが)その主人公に瓜二つの片割れが現れてダブル殺人主人公になったら……嬉しさ2倍!!というのをヨクサル節でやってるので最高。

最高の漫画。

『ひらやすみ』/真造圭伍

やっぱり真造圭伍の漫画はこういうノスタルジックさを描いてるほうが良いよなあと思う。深夜の天沼陸橋、雨の早稲田通り、どれも記憶の中にある光景なのでブーストがかかる。

『ゆうやけトリップ』/ともひ

キャラが背景に溶け込むようなにじみ絵が超良い。2人の関係性が放課後だけのものだと強調されるつくりも好き。単行本でのカラー絵再現も嬉しかった。

風景絵のエモさと呼応して切なくなる百合。

『酒と鬼は二合まで』/羽柴実里、zinbei

「人間が好き」だけど同じようには生きられない鬼が見つけた、特別な関係性。
鬼の呪いを解くというゴールと敵が設定してあるのもただの日常漫画に陥らなくて良い。
背景の描き込み。コインランドリー、クラブ、商店街、コミティアっぽい百合が一生好き!!

『アントロポセンの犬泥棒 川勝徳重短編劇画集成2021』/川勝徳重

漫画表現の多彩さに磨きがかかる。
判型と装丁の変態さは物理で所有することを強要してくる。
「犬泥棒」、「美しいひと」が好き。

『東京ヒゴロ』/松本大洋

漫画愛に満ちていて泣いてしまう。今の松本大洋だから描ける漫画なのか。

売り払うつもりだった漫画が段ボールを突き破りこぼれるコマ。ここがストーリーの転換点だと一瞬でわかる凄さ。

よしもとよしとも先生のこのツイートを見て、また胸が熱くなる。

『ブランクスペース』/熊倉献

熊倉献の描く「変な女の子」が好きすぎる。

『春と盆暗』でも描かれていた、頭の中の孤独な空想が他人に共有されていく様。『ブランクスペース』ではそれが不穏さを持って読ませるストーリーになっている。

ショーコとスイが決して理解者とはならない関係性が魅力的。秘密を共有する関係性から、共犯関係、ショーコだけがスイの脅威を知っているという展開へ移行した時のハラハラ感。見えない脅威はどんどん街を飲み込んでいくが、それに対抗できるのもまた想像力が強いキャラたちなのか。

言うまでもなく副読本としての「春と盆暗」。

comic-action.com

最新の読切も一貫して「空想」というテーマに地続きだった。

『君の戦争、僕の蛇』/中野でいち

過去作からは打って変わってありがちなバディバトル漫画か?と思いきや、主人公男子の自意識が破壊されていく4話でヤッター!!!となった。自意識、性と愛に振り回される男、でいち漫画の真髄。

加虐性に向き合うというテーマを分かりやすいジャンルに落とし込んでいるというのはそうなのだけれど、ストーリーの続きも気になりすぎる。

『THIS ONE SUMMER』/マリコ・タマキ 作 , ジリアン・タマキ 画 , 三辺律子

思春期の子どもたちの目線(怖いものみたさ)とか、例えば潜水(息を止める)のモチーフの使い方とか、なにか決定的な事件を通してキャラクターたちの"変化"を描かない叙情的な語り口とか、総合点がメチャ高い。

知識マウントというか、同性女子への、性の面でのイキリみたいな。ねっとりとした感じが上手い。

他の登場人物を世代で分けて見たとき(主人公より一回り大きな青年期の男女、主人公の親たち)、彼らにもそれぞれひと夏の開放感によって、何か大きな変化が起きる「かもしれない」危うさがあり、そういう多層的な描かれ方が面白い。

表紙も良いですね。

『ロスト・ラッド・ロンドン』/シマ・シンヤ

クライムサスペンスとしてのハラハラする展開に加え、ユーモアやセリフのリフレインなどの演出も作品としての満足感を高めている。

ある事件を通して偶然交差する2つの人生、事件解決後もlife goes onだけど、そのひとときの交差が後の人生にも影響を及ぼしていく(であろう)という描き方がとてもさりげなく丁寧。少年とおじさんのそういう関係性にハマった。

『ルックバック』/藤本タツキ

あまりにも語るフックが多くて困るが、間違いなく今年一番心を揺さぶられた。

創作の持つ力。"それでも"人生は続いていくということ。

 

今年刺さった作品として、『劇場版 少女歌劇レヴュースタァライト』、『ルックバック』、『ロスト・ラッド・ロンドン』など。

アフタヌーンで始まった『ビターエンドロール』なんかもそういう面を描いていると思うんですが、創作物の中の「それでも人生を、日々をやっていく」キャラクターたちの姿がとみに響いたな〜という2021年でした。

 

気が向いたら今年良かった読切編も書く!